Vol. 3 「STN東部自然観察会」代表 松田さんに聞く

第3回は「STN東部自然観察会」の代表 松田好行さんです。松田さんの故郷である屋久島は、いまでこそ様々なメディアに頻回に取り上げられ、樹齢数千年のヤクスギをはじめ多くの固有種・希少種が生息していることは誰しもが知るところですが、これほど多くの人が屋久島の独自の生態系と豊かさを知るに至った背景には、そこに生まれ育った松田さんでなければ表現できない故郷に対する想いと、人に伝えたいという強い熱意があったことを知りました。

インタビュー日:2020年9月26日

自己紹介をお願いします

鹿児島県の屋久島で生まれ15歳までの多感な時期を手付かずの自然のなかで過ごしました。屋久島は1964年(昭和39年)に国立公園に指定されてはいたものの、当時は一般の人への認知度は低く、豊かな自然が一般の人にはあまり知られていない現状がありました。1965年(昭和40年)に日本経済新聞に掲載された「滅びゆく屋久島原生林」の記事に触発され、「世界の森屋久島の会」を立ち上げて学者を巻き込むなど活動を始めたわけです。その後、八重岳書房という出版社を作り「屋久島の自然(1972年発刊)」という写真集を出版し、これが全国の新聞社やマスコミの目にとまるところとなり、屋久島の認知度があがりつつあることを実感しました。1993年(平成5年)に屋久島が白神山地とともに日本初の世界自然遺産に登録されたときは感慨ひとしおでした。これを機に屋久島中心の活動に区切りをつけました。1959年(昭和34年)に上京してから様々な職種を経験したのちに、1964年(昭和39年)にマツダ企画という編集工房を作り(東京都新宿区飯田橋)編集の代行業をはじめ、その1年後に出版社を立ち上げました。これを機に同郷人との集まりも盛んになり、屋久島の山のこと、川のこと、木のことがいつも話題にあがりました。 

 

STN発足までの経緯を教えてください。

STNは2020年12月で設立20周年をむかえました。屋久島の活動を通じて日本自然保護協会(NACS-J)とは面識があり、その後、NPO法人自然観察指導員埼玉に参加して、埼玉県東部に自然保護・環境保全の団体が無いことを知りました。自然保護協会の広報誌と地方紙で会員を募り、数人のメンバーでスタートしました。自然観察指導員の資格を取得したのもちょうどこの頃だったと思います。

 

STNはどのような活動をしているのですか?

現在の会員数は約80、運営委員には元々自然と生物に詳しい人が多いです。2ヶ月に一度の観察会と、メンバーの知識とスキルを高めるため研修会、一般のかた向けに各種講演会など行っています。STNニュース(会員誌)を年に3回発行しています。STNの特徴は観察会が定点観察(特定の場所を定めて継続的に観察すること)ではないことです。初めてのかたでも四季折々に様々な生物を楽しむことができるよう、運営委員が様々な特色をもつ観察地を探してきます。定点観察は既に生物に一定の知識がある人にとっては楽しいのですが、初めての人でも興味を持っていただけるよういまの形式に落ち着きました。

 

初めて参加する人に楽しんでもらうために、他にどのような工夫をされていますか?

STNは自然観察の入り口になりたいと考えています。このため参加者の自発性を尊重し、観察会の最中は質問に答えながら巡るようにしています。こちらが決めたシナリオを押し付けるのではなく会話のキャッチボールを大切にし、質問がなければこちらから話しかけます。会員数が一時に減少したことがありましたが、参加者の興味に応える形式に変えてから会員数が増えました。このためには入念な準備が必要で、事前に2-3回観察地に出向き生物調査などを行うので、コロナや悪天候で中止になるとつらいですね。また、参加者の皆さんには必ず「家に帰ったら家族に今日の出来事を話してください」とお話ししています。

 

浦和自然観察会
アリタキ植物園での自然観察会の様子(写真をクリックするとFacebbokの記事を表示できます)

 

アリタキ植物園でも観察会を実施されていますね。

植物学者の有瀧龍雄氏(2001年97歳で逝去)が国内外から希少な暖温性植物などを集取し、当時は「アリタキアーボレータム」と称し一般に公開されていました。有瀧氏の遺言で越谷市に寄贈されたのですが、残念ながら管理が十分ではなく園内が雑草で覆われてしまいました。放置すべきではないと考えSTNが無償での管理を申し出て、5年間でボランティアを含む延千人が関わって整備を続け、樹木の配置図をつくって2010年に「越谷アリタキ植物園」として開園するに至りました。この関係で時々ここで観察会を開催しています。 

観察会では主催側の皆さん自身が楽しんでいる印象を受けました。

野鳥、昆虫、植物とそれぞれ得意分野があり、なかには学者級の知識を持つ人もいて各自がスペシャリストとして自立しています。また、観察会の準備などを通じて学び合うことで互いに専門性を高め合ってきました。皆さん本当に勉強熱心で、最初はカラスとスズメしかわからなかったのに、いつのまにか野鳥に詳しくなった人がいるほどです。自らの興味に動かされ、型にははめない自由な発想を持ち込むことができる環境を大事にしています。

 

これまで活動して楽しかった想い出は?

STN運営委員の皆さんと一緒に故郷の屋久島に旅行に行き、固有種等を観察したりした時はじつに楽しかったです。また、活動地域を越谷周辺に限っていないので、メンバーの提案で時には日光植物園など遠方まで観察会に出向くことがあり、いつも新しい学びから刺激を受けています。

 

今後の目標などあれば教えてください

私の住む地域の皆さんと若い世代の皆さんに自然保護の大切さを認識してほしいという想いがあり、この活動をこれからも続けてゆきたいです。

 

最後に、会の活動や自然観察指導員に興味をもつ皆さんにメッセージをお願いします

自分の意思で参加して気持ちを人に伝えることが、ご自身と次の世代、その次の世代まで豊かな自然を残すことにつながりますし、何より身近な自然に触れることでリフレッシュでき楽しいです。我々の活動に少しでも興味があれば、どのようなかたちでもよいのでご参加ください。お待ちしています。